2023年01月25日

読書探偵作文コンクール2022 最優秀賞 全文掲載

 最優秀賞を受賞なさった大北隼矢さん、今林玲奈さんの受賞のことばと作品全文をご紹介いたします。
 なお、選考結果につきましては、以下の記事をご覧ください。
読書探偵作文コンクール2022 最終選考結果発表!

(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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◎最優秀賞
大北 隼矢さん(小6)

読んだ本――『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ作 土屋政雄訳 早川書房
クララとお日さま
クララとお日さま

【受賞のことば】
 一年生の時から応募していた、大好きなコンクールの【小学生部門】で有終の美を飾れて、すごくうれしいです。
 最初は、まだ字の多い本が読めなくて、絵本の一行だけの感想文でした。毎年、読める本が少しずつ増えて、文章もだんだん長く書けるようになってきました。
 ぼくは、小さな頃から「なんで?どうして?」と考えることが大好きです。
 これからもいろんな本を読み、たくさん考えて、気付いたことを文章にしていきたいです。

【作品】
「受験勉強の合間に」


 「期間限定の友だちは、いる?」
 そう聞かれたら、困ってしまう。
 ぼくは、友だちと長く付き合っていきたい。そもそも、友だちって死んじゃうとか別れるとかは、確定していないものだし。やっぱり、すぐにいなくなっちゃうのなんて、いやだ。
 だから、「お友だちロボット(AF)とは、大人になってから出会えたらいいのに」と思ってしまう。大人の期間は長いけれど、ティーンエイジャーの期間なんて、とても短いからだ。
 この本を読むと、『トイ・ストーリー』や『鉄腕アトム』を連想する人も多いみたいだけれど、ぼくは犬と、『ワンピース』の「ドレスローザ」という、人とおもちゃが暮らす国を連想した。そして、どこかで読んだ「友だちロボットを作れるのは、アジア人だけ」という記事を思い出した。
 すごくおもしろくて、読みだしたら止まらなくなった。たいていの小説は、夜ふかしを一回すれば読めるのだけれど、この本は分厚いので、四回くらい夜ふかしをしてしまった。
 ぼくが一番すきな登場人物は、リックだ。嫌な感じの人に、みんなの前で勇気ある行動を取ったり、最後に納屋へ連れていってくれたりして、とてもやさしい。ぼくは、やさしい人が大すきだ。
 そして、ぼくは、ハッピーエンドが大すきなので、六部からの話はなくていいと思った。(作者さん、ごめんなさい)
 どうせなら、奇跡が起きたところで、幸せいっぱいのまま、終わってほしい。
 でも、六部があるのなら、ラストは、廃品置き場で放置(それとも、スクラップされるの?)じゃなくて、家族の手で電源を切るとか、家に連れて帰った責任として、ちゃんと看取ってから、終わりにしてほしい。
 本を読んだ後に、この本に関わっていた人のインタビューを見たり、聞いたりした。
 すると、いろいろな発見があった。 
  発見一 作者のインタビュー
 作者は、本を作る時に、絵本からたくさんの影響を受けたそうだ。
 そういえば、友達に、この本を勧めた時、「なにそれ? 絵本?」と聞かれたのを思い出した。
 「ううん。四三三ページもある小説」といったら、友達は、「えぇーっ!」とびっくりしていた。
 また、作者は、「AIが感動させたり、泣かせるようになったら危険だ」といっていた。 「本当に、それは怖いことなのかな?」
 もし、そんなことができるAIが生まれたら、ぼくは、友だちになってみたいと思った。時間を限定しない友だちに。 
  発見二、ほん訳者のインタビュー
 ほん訳者は、作者からの注文で、クララだけが使う言葉、「クララ語」を考えなければならなかったそうだ。
 「シャーピ鉛筆って、クララ語だったんだ!」と、ぼくは驚いた。ぼくの知らない商品だと思っていたからだ。
 他にも、クララが何をいっているのかわからいところがあったけれど、それはすべて、ぼくの知らない日本語だと思っていた。
 ほん訳者が、「聞きなれないけど、ピンとくる言葉」を上手に作っていることに気付いた時、ぼくは感動していた。
 また、ぼくは、タイトルの「お日さま」という言葉と、「さま」のひらがながいいなと思っていたけれど、最初は漢字だったのに、その後に偶然、ひらがなになったと知り、そんなことってあるんだと、驚いた。
  発見三、装丁をした人のインタビュー
 アメリカ、イギリス版の表紙は、オレンジ色に四角のデザインで、四角の中からお日さまが少し顔を出しているものだと知った。
 ぼくは、絵本っぽくて、あたたかい雰囲気の日本版の表紙が好きだ。
 一冊の本が出来るまでに、作者やほん訳者、装丁や校えつ、出版社の編集や営業、印刷所などの、いろいろな人が関わりあって、本を作っているのだと知り、すごくすてきなことだと感じた。
 最後に、作者は、世界のほん訳者がまちがいにくいように、イギリス英語ではなく、ほん訳しやすい英語を使っているのだという。受験が終わって時間ができたら、次は、英語版も読んでみたい。

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◎最優秀賞
今林 玲奈さん(小3)

読んだ本――『小さなトロールと大きな洪水』 トーベ・ヤンソン作 冨原眞弓訳 講談社
小さなトロールと大きな洪水
小さなトロールと大きな洪水

【受賞のことば】
 この度は最優秀賞に選んでいただきありがとうございます。
 受賞のきっかけを作ってくれた作者のヤンソンさん、ムーミンと仲間たち、そしてこの物語を日本語になおし紹介してくれた方々に心から感謝します。
 今回私は作文を書くことで、物語を何度も読み、本の世界に入っていきました。これからムーミンを読もうと思っている方もぜひ深読みしてみてください。最初は気づかなかった作者のメッセージに気付いたり、外国の文化についても分かり、もっと楽しくなるはずです。

【作品】
「T・ヤンソンとえい遠の仲間たち」


 私は読書の本をえらぶ時、本のうら表紙やおびのせつ明を読んで決める。この本には、「ムーミン童話の記ねんすべきだい一作」と書かれていた。これまでにも、ムーミンの本は何さつか読んだことがあったが、一作目からあらためて読みたいと強く思った。
 このお話は、小さなムーミンたちが、いなくなったパパと温かい場所をもとめて深い森をさまよい、出会ったみんなとたすけ合いながら、さい後はパパを見つけムーミン谷を作り出すというハッピーエンドで終わる。
 私がこれまでに読んだムーミンの話もだいたいハッピーエンドで終わる。小せつ家でたび好きのパパ、料理がとくいでやさしいママ、みんなと遊ぶのが大好きなムーミントロールの一家の所には、いろんなお客がやってくる。お客は小さかったり大きかったり、こわがりだったり、いろんなとくちょうを持つかわった生き物で、じけんもおこるけど、ムーミン一家は何をしてもいいという風に温かくうけとめてあげる。オノマトペでいうなら、と中でドキドキ・ワクワク、さい後はポカポカ・ニッコリというのがよくあるムーミンのお話だと思う。
 この『小さなトロールと大きな洪水』を読んだ時、ワクワクしたかんじがあまりなく、さい後もポカポカというよりキラキラしたかんじがした。なぜだろう。
 うら表紙をもう一ど見ると、「だい二じ世界大せんき、トーベ・ヤンソンが安らかさをもとめて書いた」と書いてあった。この話では、ムーミンたちは長い間、森をさまよいとほうにくれている。そしてさい後のさい後にとつぜん光にてらされ、明るい場面になる。私はこの長い間のくらさと不安と苦しみはせんそうを表しているのかなと思った。反対にさい後のキラキラした明るさは終せんのよろこびと幸せを表しているのかもしれない。森をさまよっている間ムーミンはさびしくてつらかったにちがいない。でも、パパを見つけるまであきらめなかったし、洪水にもまけなかった。ついに温かい場所についた時の安心とよろこびはどれほどだろう。いたる所に目をみはるほどきれいな花がさいている。ヤンソンさんはせんそうが終わったらきっとこんなふうに温かくキラキラした世界になるにちがいないと考えてこの本を書いたのではないか。
 さい後に、もしヤンソンさんが今ムーミンのお話を書いたら、どんなお話になるだろうか。今も世界には、せんそうやコロナや地球温だん化などの問題がたくさんあってとてもこわい。ヤンソンさんは、不安な時代だからこそ、とびっきり面白くて楽しい話を書くのではないか。そうして、世界の人々に楽しさとえ顔をとどけてくれると思う。
 そして、ムーミンたちがムーミン谷に来るいろんなお客をやさしくうけとめたように、すがたや考えが自分とちがっても、みんなで仲よくするんだよと私たちにやさしく教えてくれるにちがいない。

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 最優秀賞を受賞なさったおふたりには、賞状と5000円ぶんの図書カードをお送りします。
 あらためて、おめでとうございます!