2021年12月31日

読書探偵作文コンクール2021 最終選考会レポート&総評

 最終選考会のもようをお伝えします。

 今年もWeb会議ツールを使用して、オンラインで選考会をおこないました。例年どおり3名の最終選考委員が、1次選考を通過した15作品を1作品ずつ検討していき、話し合いを重ねた結果、最優秀賞3作品、優秀賞3作品、ニャーロウ賞1作品が選ばれました。
 入賞した7作品については、後日、こちらのサイトで全文を掲載する予定です。
 最終選考委員のみなさんから、1次選考を通過した作品それぞれへの感想やアドバイスをいただきましたので、ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

今林 玲奈さん(小2)
読んだ本――『魔女にとられたハッピーエンド』 キャロル・アン・ダフィ作 さわちかともこ訳 新樹社

魔女にとられたハッピーエンド

宮坂「2年生が読むには少しむずかしい話だと思いますが、作文からは、自分なりに作者がいいたいことを考えて、メッセージを読みとろうとした姿勢がうかがえました。そこがすばらしいと思います。文章もしっかりしていますね。おまけの絵からは物語のイメージが感じられて、参考になりました」
ないとう「この絵本、魔女がハッピーエンドをぬすんだせいで、昔話が不幸な物語になってしまい、魔女のぬすんだものをとりかえそうという話が、絵でも文章でも生々しく描かれています。しかも、書いたことが実現する魔法のペンをめぐって最後には作者が登場し、このペンでこの物語を書いているのだというオチまでついています。この複雑なお話を自分なりに把握してまとめ、感想も付け加えているのはすごいと思いました。最後の「この幸せな気持ちになれる本が世界の子どもたちに届けられるといい」という1文がすごく大人びていて、まるでレビューのようです」
越前「作文を読んで、もとの本を読みたくなりました。段落分けのしかたがうまく、筋のとおった読みやすい文で書けています。もうちょっと本の内容紹介があれば、もっとよかったかな。本を初めて読んだときに理解できなくて、1年たって読んでみてよさがわかったということですが、そういう姿勢がいいですね」


三原 舜一朗さん(小2)
読んだ本――『がんばれ!小さいじどう車』 バーグ作 まえだみえこ訳 旺文社

ないとう「二次創作ですね。この物語の世界を自分の言葉で書いてあります。小さい自動車と運転手さんが毎日車を走らせてる、そのほのぼの感みたいなものがそっくり再現されています。最後に虹をわたってみようという場面で終わるのもいい。じつはもとの物語に、小さい自動車が整備をしてもらったら空を飛べるようになったという話が出てくるんです。でもただ飛んで降りてきて、またいつものように地面を走り出すだけ。きっとそういうのが印象に残っていて、空を飛べたらいいのにという願望を虹の場面で表現しているんじゃないかなと思いました」
越前「作文から感じられる絶妙なゆるさが、もとの作品の雰囲気をよく伝えていると思います。おちがしっかりついているところもいいですね。独自の世界観が本の世界観とぴったりあっているようで、とても楽しい作文でした」
宮坂「二次創作ですが、もとの作品との大きなちがいは、自動車と運転手さんが会話できるところですね。会話ができたらどうなのかな、自動車が実際に空を飛んだらどうなのかな、など、自分がもっと読みたいと思ったところを書いてくれたのでしょうか。おまけの絵もかわいらしく、物語をまるごと受けとめて楽しんだことが伝わってきました」


りゅうせい さん(小3)
読んだ本――『ぬすまれた宝物』 ウィリアム・スタイグ作 金子メロン訳 評論社

ぬすまれた宝物

越前「Q&Aの形式で書かれた作文というのは、おそらくこのコンクールで初めてで、とても新鮮に感じました。質問がするどく、項目の立て方や自分なりの評価基準の根拠もしっかりしていて、わかりやすくいい作文だと思います。最後、王さまが悪者にされているけど、王さまの立場だったらやむをえずそうするんじゃないかな? そこはちょっと気になりました」
宮坂「作文をQ&Aで書いていくという形式はおもしろいですね。物語を読みこんで、要点を把握しているからこそできることだと感心しました。質問が本の筋にあっているので、あらすじもよくわかるし、もとの本のおもしろさも伝わってきました。自分の感想ももう少し書いてくれたら、さらによい作文になったと思います」
ないとう「わたしはミステリーを読むとき、いろんな謎や人物が頭のなかで錯綜したまま、とりあえずいきおいで読んでしまうことがよくあるんですけど、こういうふうに整理しながら読めば、頭のなかがすっきりするんだろうなとこの作品を読んで思いました。じつはこの物語のなかでは、無実なのに犯人にされてしまったガウェインをはじめ、信頼するガウェインをうたがってしまった王さまも、真犯人のネズミのデレックもみんな苦しい思いをしています。だれかひとりがいけないわけではなく、みんなが弱さをかかえている。そういうあたりもくみとっていくと、さらに物語がおもしろく感じられるかもしれません」


川島 栄輝さん(小4)
読んだ本――『最後の授業』 ドーデ作 南本史訳 ポプラ社

最後の授業

宮坂「戦争に負けたことによって、それまで習っていたフランス語が習えなくなるという理不尽さがきちんと伝わってきました。それから自分の立場におきかえて、もしこれが日本語だったら……と、改めて日本語を見直しているところもいいですね。少しわかりにくいところがあるので、段落分けの仕方や体裁を見直したら、さらによい作文になると思います」
ないとう「わたしはこの話が教科書にのっていた世代で(1985年以降のっていないそうです)当時は、この主人公がフランス語で生活していたのに、それを敗戦によってうばわれたという話だと思って読んでいました。今回何十年かぶりに読んでみて、あれ、この子はふだんフランス語で生活しているわけじゃないんだと初めて気づいてほんとうにびっくりしました。とくにヨーロッパの場合は、同じひとつの国のなかでもいろいろな言語が話されている場合がありますし、このアルザス=ロレーヌ地方というのは、ずいぶん複雑な歴史をたどってきたのだと今回知ることができました。ただ、この物語自体まぎらわしい書き方をしているので、母語をうばわれた話に見えるのも当然かなと思います。作文自体は、とても熱く、自分の想いをまっすぐに書いているところがすがすがしいですね。いきおいのある文章だと思いました」
越前「あらすじがしっかりわかりやすくまとめられていて、よく書けている作文です。感想の部分も力強い。作文のなかにある、もし授業についていけなくても積極的に手をあげて発表したい、という部分に、この作文の書き手の生きる姿勢のようなものが反映されているようで、おもしろく感じました」


杉本 善々さん(小4)
読んだ本――『八つの犯罪』 ルブラン作 南洋一郎訳 ポプラ社

八つの犯罪

ないとう「お母さんが子どものころ怪盗ルパンが好きで、それをきいたことをきっかけにルパンを読み始めてどんどんはまっていく……すごく幸せなルパンマニアの継承が行われる現場を見せてもらっているようで、もうそのことだけでにこにこしながら読みました。感想のなかの「ルパンは美少女が好きなのかな」というところで笑いました。大人になったらぜひオリジナル版も読んでみてください」
越前「ひとつの短編を1行で伝えるという簡潔なまとめ方がすばらしい。まっすぐにおもしろさが伝わってきました。本を読んで、その内容を自分の体験とむすびつけて書くのは読書感想文の常道だけど、この作文はひたすら本のおもしろさを伝えていて、そこがすがすがしいです。ぼくはこの本を小学4年生で読んで、その後ミステリーに何十年もはまったので、あなたもはまってください」
宮坂「文章がすごく上手ですね。読書量が多くて、文章も書きなれているのだろうと感じました。理路整然と述べられている文で、とてもわかりやすい。楽しく読んだことも伝わってきました。全集は30巻あるそうですが、きっと読破できるのでは? 読み終えたら、またぜひ感想を送ってください」


棚瀬 準三さん(小4)
読んだ本――『ぼくのあいぼうはカモノハシ』 ミヒャエル・エングラー作 はたさわゆうこ訳 徳間書店

ぼくのあいぼうはカモノハシ

越前「語彙が豊富で、独特のリズムをもった文章がすばらしい。もとの作品の雰囲気を凝縮させることができているんだろうな、と感じさせる作文でした。2ページ目で「ルフス」と書くべきところを「ぼく」と書いてしまったところが一か所だけあったのが惜しい」
宮坂「語り口がユニークで、ひとつの物語を読んでいるような楽しさを作文自体に感じました。カモノハシという生きものにも興味がわいたし、物語に出てくるキャラクターのおもしろさもよく伝わってきて、もとの本を読みたくなります。最後の考察もなるほど、と思わされ、物語のおもしろさと本を読む楽しみの両方がよく伝わってきました」
ないとう「自分で調べたカモノハシ豆知識から始まって語り口が秀逸で、こういうふうに原文に書かれているのかなって思ったらどれも独自の言い回しだったので本当に感心しました。で、リズミカルに進んでいって最後にちゃんと自分なりの考察がしっかり入ってるところも、やるなあという感じです。全体としては、とてもストレートに作品のことだけを語っているのですが、文体のひねりがきいていて、とても楽しく読みました」


鍋田 典秀さん(小4)
読んだ本――『新訳 ナルニア国物語 (3)竜の島と世界の果て』『新訳 ナルニア国物語 (4)銀のいすと巨人の都』 C・S・ルイス作 河合祥一郎訳 角川つばさ文庫

新訳 ナルニア国物語(3)竜の島と世界の果て 新訳 ナルニア国物語(4)竜の島と世界の果て

宮坂「いじめっこのユースタスに着目してくわしく書いているところに興味をひかれました。もし自分がナルニア国で冒険をすることになったら……という部分では、実体験からきている正直な感想が書かれていて、好感がもてました。とても楽しい作文です」
ないとう「内容紹介が手ぎわよく上手にまとまっていて、もう一度読み返してみたいという気持ちをそそられました。でも一番印象に残ったのは、じつは、ぼくはどれだけこわがりかという最後の告白です。冒険はこわいからあまり行きたくないんだけど、でもナルニアには行ってみたい、だからぼくは勇気を学べたらいいなということなんですが、こういうふうに自分の弱さを認める告白ができるということもひとつの勇気なので、勇気の形にはいろいろあるよという励ましの言葉を送りたいです」
越前「ナルニアの話をこのように読んで語るという目のつけどころがおもしろい。深く読みこんでいないとできないことだと思います。どこか大人びた視点から悠々と語っていて、表現力もすばらしいと感じました。自分を客観化した最後の部分はあまりにも正直でおもしろく、作文のおまけとしてぴたっとはまっています」


盛川 葵羽さん(小4)
読んだ本――『サリバン先生とヘレン ふたりの奇跡の4か月』 デボラ・ホプキンソン作 こだまともこ訳 光村教育図書

サリバン先生とヘレン ふたりの奇跡の4か月

ないとう「白杖体験や車椅子体験など、学校の授業を通じた体験の話がたくさん出てくるのですが、それが全部この本の内容とダイレクトにつながっていて、読書の中身がそのまま血肉となるような読み方をしています。とても幸福な読書だなと思いました。問題意識をはっきりもっていることが伝わってきて、とてもいいですね。作文としては、ひとつの話題をひとつの段落にまとめて全体を整理すると、すっきりするだろうと思いました」
越前「サリバン先生の長所がさまざまな角度からよく書けています。実体験と本の内容が行ったり来たりしているので、構成をもうひと工夫すると、より読みやすい作文になると思います。本の内容、実体験ともに、くわしく素直に書いているところがいいですね」
宮坂「本の引用から始まる冒頭からひきこまれました。読者への呼びかけなどもいれて、文章の書き方がじょうずです。ハンディキャップ体験の紹介にも興味をひかれましたし、絵とともにまとめたおまけも工夫が凝らされていてわかりやすかったです。同じ内容の文が繰り返されていることなど、気になる点もありましたが、熱い気持ちはよく伝わってきました」


大北 隼矢さん(小5)
読んだ本――『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』 トーベン・クールマン作 金原瑞人訳 ブロンズ新社

アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険

越前「このネズミのシリーズはコンクールでも毎年人気ですが、この作文からもシリーズの本が大好きなことがびんびん伝わってきました。目のつけどころがおもしろくて、もしも自分がタイムスリップしたらどうするかを考えたり、ネズミの寿命を調べたり、独特のセンスがありますね。構成にもう少し工夫がほしかったけど、本のおもしろさを伝える熱量は、今回送られてきた作文のなかで一番でした」
宮坂「「空、宇宙、海ときて、ついに時間が来たか!」という部分がいいですね。わくわく感がよく伝わってきました。表現が口語的なためか、ふだん話す声がそのまま作文から聞こえてくるようなおもしろさがあります。むすびの言葉もきまっていて、納得させられました」
ないとう「「彼のことは、理科で特殊相対性理論の人だと習っていたから、うわっと思った」って、すごいですね。理科で(名前だけにせよ、アインシュタインを)教わるんだということも驚きましたが、とてもわくわく感が伝わってきて、うれしくなりました。タイムマシンで戻ったら過去の自分が2人になるんじゃないかとか、タイムトラベルは過去に向かってしかできないと思っていた、などとさらりと書いてあって、いろいろタイムトラベルものを読んでいるのかなと思いました。競馬の番号を見ておいて億万長者になるというアイディアを思いついて、自分でつっこみをいれているのもおもしろいです。このへんはもう、ぜひ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見てくださいといいたいです(とくにU)。「面白い作品というのはそういうものだから」という最後の1文には、思わずマーカーをひきました。きまってます」


川上 莉央さん(小5)
読んだ本――『星の王子さま』 サン=テグジュペリ作 三田誠広訳 講談社

星の王子さま

宮坂「この本を2年ぶりに読み返してみて、なにかを好きになるのはすてきなことだと作者はいいたいのではないかと考え、「好き」という気持ちについて深く考えた様子がうかがえました。大人が読んでもむずかしい本ですから、まだ理解できていないところがあるというのは正直な感想だと思います。何年か後に読み返したら、またちがう感想をもつと思うので、ぜひ読み返してみてほしいですね」
ないとう「すごくじーんとくる作文でした。小学校3年生のときの「読んだのにどんなお話かよくわからない。楽しかったとか悲しかったとか、そういう感想がない不思議なお話でした」という体験から、初めて『星の王子さま』を読んだときってそうなるよねという感じがすごく伝わってきました。で、2年たって読み返して、ここまで読めたのはすごいなあと。しかも作中の言葉をぽんと抜き出すだけではなく、「話をしたり遊んだりお世話をしたりケンカしたりしながら一緒の時間を過ごしていくなかで時間をかけて生まれてくるもの」が愛情なんだとすごく具体的に書いていて、自分の頭でしっかりと考えてこの本を読んだことが伝わってきました」
越前「2年後に同じ本を読み返してみて、わかるようになった部分、わからない部分を明確にし、本といっしょに成長していく――。本と向き合う姿勢として理想的だと思いました。この作文を読んだ人は『星の王子さま』を読んでみよう、全部わからなくてもいいんだ、と思うのではないでしょうか。すばらしい作文です。理解にまよっているところは作品の肝になっている部分でもあり、深く読みこんでいることがわかります」


日下 小都姫さん(小5)
読んだ本――『12のバレエストーリー』 スザンナ・デイヴィッドソンほか作 西本かおる訳 小学館

12のバレエストーリー

ないとう「これも自分の体験が本の内容と直接に結びついています。最後の方に「私は、この本が恩人と言っても過言ではありません」とまで書いているんですよね。バレエをする子はこの本をこういうふうに読むんだなあと感銘を受けました。きっと新しい踊りを踊るたびにこの本を取り出してまたじっくりと読んで、それを自分の体験に生かしていくのでしょう。とても幸せな出会いをしたんじゃないかと思います」 
越前「読んだ本をほかの人にも読んでもらいたいという強い気持ちがしっかりと伝わってきます。構成もわかりやすく、自分自身のバレエの実体験とスムーズにつながっていると思いました。やや繰り返しが多く、長く感じられるので、本の具体的な内容や読みどころなどをもう少しメリハリをつけて書くと、もっとよく読者に伝わると思います」
宮坂「バレエの作品のもとになっている物語を読んでから実際にバレエを踊るというのが新鮮でした。物語そのものを楽しみながら、自分が習っているバレエに生かしたり、友だちへのバレエの紹介にも利用したり、この本を活用しきっている感じがします。読者に語りかけているところも、すごく気持ちが入っていてよかったです。〈すばらしい〉という言葉が何度か繰り返されるので、別の言い方で表現できたらもっとよかったと思います」


中込 恵楠さん(小5)
読んだ本――『ぼくのつくった魔法のくすり』 ロアルド・ダール作 宮下嶺夫訳 評論社

ぼくのつくった魔法のくすり

越前「本と向き合っていく姿勢の変化がよくわかります。実体験とうまく連動しているので、読んでいてすがすがしかったです。モヤモヤが残ったという自分の心のなかの葛藤が正直に書かれ、作文を読みながらこの本をいっしょに読んでいるような気持ちになりました。自分と主人公が重なりあうプロセスが見えてくるところにひきこまれますし、正直な心の動きが最後まで感じられて、とてもいいと思いました。どろだんごのエピソードはなくてもよかったかもしれません」
宮坂「「いいきみだ!」という自分の感想のセリフからスタートしているところがうまくて、ひきこまれました。とんでもない人たちばかり出てきて、この終わり方でいいのっていう感じで終わる本なので、モヤモヤが残った気持ちはよくわかります。このモヤモヤの正体はなんだろうって、自分の体験もふまえながら深く考えているところがいいですね。グランマがいなくなってよかったと思う気持ちと、これはやりすぎだと思う気持ちがぶつかっていたのがリアルで、そういうふうに自己分析ができているところがすごいと思います。自分だったらどういう薬を作ろうかと想像しているところも楽しかったです。全体的に素直な作文でよかったと思います」
ないとう「これ、ロアルド・ダールのなかでも一段とブラックなお話なんですよね。あらためて読んでみるとお父さんがもう完全にグランマを消そうとしてて――奧さんの母親ですね――で、奧さんも、そんなのダメダメって言いながら、最後本当に消えちゃったらまあいいかみたいな。一番呆然としているのは、くすりを作った「ぼく」なんです。だからこの作文を書いた子はまさしくその「ぼく」の気持ちをそのままなぞりながら読んでいって、モヤモヤを残したまま作文を書き終え、へんに結論を出してないところがすごくいい。そのモヤモヤをかかえていれば、ぜんぜん別の作品を読んだときにまた急になにか思い出したりするかもしれません。モヤモヤというのは読書をしていく上でひとつのアンテナになるんじゃないでしょうか」


波多 美理愛さん(小5)
読んだ本――『木を植えた男』 ジャン・ジオノ作 寺岡襄訳 あすなろ書房

木を植えた男

宮坂「書き出しが上手で、この本の一番大事なところをまず言うというのがすごいと思います。最後の言葉も余韻があってきまっていますし、「私は思わず本に問いかけてしまった」という表現は文学的でさえあって、全体的に書き方がうまくて感心しました。もくもくと木を植え続けた主人公の姿に感動して、大きく影響を受けたことがわかります。また、主人公の行為にただ感心するだけでなく、一冊の本からたくさん学んで吸収して考えている様子が伝わってきました」
ないとう「すごく深みのある作文です。この土地がブフィエの心の世界だったんじゃないか、妻も子どももなくして完全に孤独になってしまったその心の世界を、この荒れた土地が表しているんじゃないかという考察とか、そのあとの孤独の考察が本当にすばらしい。いろいろな種類の孤独があって、人のなかにいても孤独を感じることはある。でもブフィエは自分のやっていることに確信を持っていたから、ひとりぼっちでもむしろ孤独ではなかったんじゃないかというあたり、深い思索と感性が感じられて、とても感心しました。文章もしっかりしていて、全体がひとつのエッセイになっていますね」
越前「すごくリズムがいい作文です。本の内容と自分の感想が段落分けされていないのですが、そのふたつをらせん構造のように行き来しながら作品のイメージがだんだん形作られていくという不思議なつくりの作文でした。ひとつひとつの言葉の力強さとか深さみたいなものが関係しているのかもしれないですね。詩のような響きも感じられ、この作文自体がまるで文学作品のようで、とても味わいがあります。最初の文が現在形の「〜る」で終わり、次の文が過去形の「〜た」で終わるなど、バランスがいいのだと思います。文章がうまいですね」


丸山 朝光さん(小6)
読んだ本――『ぼくがスカートをはく日』 エイミ・ポロンスキー作 西田佳子訳 学研プラス

ぼくがスカートをはく日

ないとう「視点を変えて先生の側から書いている二次創作です。原作を読んでみると、先生のせりふはそのまま抜き出していて、その時先生が感じていたであろうことを自分の言葉で補って書いています。二次創作のひとつのスタイルをなぞってはいるのですが、それをとても上手にやっています。たとえば「ランデン先生とゆっくり顔を見合わせました。ランデン先生も『グレイソンがペルセポネに見えた。すばらしかった』というようなきらきらした顔をしていました」というあたりなどは、原文では単に「顔を見合わせた」とだけ記されているところなので、背景の想像力がすぐれていますね。とても楽しく読みました」
越前「作品の一部を選んで視点人物を変えるという独特の手法が斬新でおもしろかったです。描写がリアルで、心のなかの描き方も細やかなので、部分的に切り取っていても、作文を読んでいる読者が作品のほかの場面まで読みたくなると思います。カラーで解像度が高いというような印象を受ける作文でした。最後まで先生の視点で終わるので、本当の私(筆者)の視点に戻ってきてほしかったという気持ちも少しあります」
宮坂「心に残ったシーンを主人公ではなく脇役の視点から創作していて、こういう楽しみ方もあるのだなと思いました。本のセリフはそのまま生かしつつ、心理描写を想像で補っていますが、それは作品をよく読みこんで、状況を理解しているからこそできることですね。作品の魅力が伝わってきますし、主人公や脇役の人たちの性格も想像がつくので、ちゃんと作品紹介にもなっているように思いました。男の子が女の子を演じるということを素直にそのまま受けとめているところにも好感が持てます」


丸山 希泉さん(小6)
読んだ本――『モモ』 ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳 岩波書店

モモ

越前「モモの20年後を想像して書かれた二次創作ですね。今の自分のまわりの日常に対する鋭い批判精神が創作の動機になっているのに無理矢理な感じがないところがよかったです。自分自身の足元を確かめるためにこの本を咀嚼しているところから始まっていますが、自分の歩みとあわせて作品をしっかり読みこみ、生かしているのを感じます。こういう二次創作は好きです。『モモ』をまた読みたくなりました」
宮坂「あんなに時間を大切にしていたモモがどこにでもいそうな忙しいお母さんになっていて、いい意味で予想を裏切られ、おもしろかったです。新型コロナウイルスやロックダウンという言葉が出てきて、一気にファンタジーから現実へ引き戻されるような気がしたのですが、かえって今の小学6年生のリアルな気持ちが感じられました。〈ファミリータイムチケット〉という発想がユニークですね」
ないとう「モモが話を聞くのが得意だから弁護士になったというのは、言われてみればあるかもしれないと思いました。全体的に夢があるのかないのわからない設定なのですが、すごくリアルにとらえているのがおもしろかったです。コロナで仕事が休みになったという現実世界の取りこみ方も興味深かったです。子どもの書いたコロナの物語みたいなものを読んでみたいですね。一番影響を受けているのは子どもたちかもしれません。10歳とか12歳ぐらいの人生のなかで2年ってものすごく大きいですから」

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【総評】

越前 「今年もすばらしい作文をたくさん読ませてくださって、ありがとうございます。今年は例年にも増して粒ぞろいの候補作がそろい、どれを選ぶかでとても迷いました。今回入選しなかった人も、ほんとうにわずかの差でしたから、ぜひ次回も応募してください。何年かつづけて応募してくれる人の成長ぶりを見るのは、選考委員としての大きな楽しみです」

ないとう「今回もたくさんの応募をありがとうございました。感想文、二次創作、レビューやエッセイに近いものなど形式はいろいろでしたが、どの作文からも、本をおもしろく読んだこと、読んで自分なりに考えたこと、そしてほかの人にもすすめたいという熱意が伝わってきて、胸が熱くなりました。賞にもれた人や一次選考を通過できなかった人も、がっかりしないでくださいね。思いはちゃんと届いていますので、またぜひおもしろい本をさがして、そのことをわたしたちに教えてください」

宮坂「今年もおおぜいの読書探偵のみなさんが外国の本と出会い、そのおもしろさや自分の考えをいろいろな形で伝えてくれました。本当にうれしかったです。たとえステイホームになろうとも、本を読むことは可能。いや、そんなときこそ、本の世界を自由に旅してほしい。みなさんが読書を楽しんでくれること自体が、本づくりにかかわる私たちにとっては大きな喜びです。来年もたくさんのご応募をお待ちしています!」
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(一部の本は、応募者の方が読まれたものとは別の版を用いています)

 今年もすばらしい作品をおよせくださったみなさん、ありがとうございました。
 今後はこちらのサイトで、みなさんが読まれた本を順に紹介していく予定です。お楽しみに。
 また、中高生部門のサイトでも、コンクールの結果や入賞した作文の全文が公開される予定ですので、ぜひご覧ください。
 来年もたくさんのご応募をお待ちしております。